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水の流浪 第一集より

​Ⅰ.午睡の海 Ⅱ.間奏曲 Ⅲ.水紋 Ⅳ.光、風、波、そのすべてを

 

 敬愛する詩人、金子光晴の詩集のタイトルを勝手に用いて、水というあまりに魅力的でありかつ不可解なものの、その姿を自由に描いてゆきたいと思い、始めた連作だ。

「午睡の海」、まずは唐津の、穏やかに眠っているような海を描く事から始まった。水面に輝く光の粒、緩やかな風・・・だが、これらに魅かれるのは、この海がまた一方ではどこまでも獰猛な姿を隠し持っているからだ。そうして独り言のような「間奏曲」。静かな水面に美しい円を描きながら広がってゆく「水紋~宇野道子さんへ」と連作は続いてゆく。 

 

 ところで宇野道子さんというのは誰なんだい?うん、福岡の小さな出版社にお勤めのお嬢さんさ。もう十年ほども前、視力を失った私はあらゆる事で宇野さんに助けていただいたんだ。そのお返しにと書いた曲がこの「水紋」さ。えっ?その時に受けた大恩を、このいたずら書きみたいな鼻歌一つでちゃらにしようってのかい?うん、実はそうなんだ。もう私には差し上げるようなものが何一つ残っていない。どうやらこの恩をお返しできそうにはないんだ。どうかこれでご容赦下さいってな訳さ。

 

 終曲は「光、風、波、そのすべて」。さあ、ここで思い切りはったりをかましてみようか。実はこの曲、畏れ多くも画狂人卍こと葛飾北斎の絵を強く意識している。その絵とは長野県は小布施の上町祭り屋台の天井に描かれている「男浪」「女波」だ。どこまでも激しく回転を続ける波。自身の作品の貧弱さを曝け出す事を覚悟で書くならば、是非ともこれらの絵をご覧いただきたい。インターネットで検索するならば、たちまちあなた方をその中に巻き込んでしまうような力強くうねる波が画面一杯に現れるだろう。もちろん私は、まだまだこれからも北斎の波に挑むように、自身の波を描き続けるつもりだ。

 

       カタロニアの光と影 プログラムノートよ(2019.10.27)

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