楽 土 (2005)

 

 とにかく書きたかったものは、幅広い、悠然とした流れだ。久留米のオーケストラから依嘱を受けたこの連作は、筑後川を題材とすることから始まった。

 

無限の変化の可能性を秘めた大河。静かな悠然とした流れも、荒れ狂う姿も、書きたくないものなど一つも無いのだ。そして、暮れなずむ春の夕方。薄く霞みがかった薄桃色の空の下、鈍い黄金色に輝くこの大河は在った。そしてそこに群れ遊ぶ鳥たち。
 

 

 そういえば、この曲に関して、初演の直前に読売新聞からインタビューを受けた。まだ作曲の記憶も生々しく、思いつくままにいろいろなことを喋ったのだが、その内容をすっかり忘れてしまった。丁度その頃、久留米の看護婦達による連続殺人事件が発覚した時で、新聞紙面のスペースの都合上、その記事はボツになってしまたので、自分がどんな浅ましい事を喋ったのか確かめる術も無い。

 

 

 この楽土は六つの楽章から成る。それぞれの楽章にサブタイトルがあり、第一章「群れを遊ぶ黄金の鳥たち」、第二章「空を翔ける龍のような大河」、第三章「秋、山に降る雨」と続いてゆく。もしかすると、お気づきの方もあるかも知れないが、中上健次の『千年の愉楽』をパクったものだ。中上に対するオマージュのつもりで書いたこの連作だが、その出来については、自分では言うことができない。ただ、改めて中上健次の偉大さを痛いほど感じさせる仕事になった。

           シンフォニーオーケストラ福岡演奏会プログラムノートより                                                                                                    2002.5.4

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