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  子供の為のピアノ小品集Ⅰ

​   「子供は眠る、暖炉のそばで(2006)」

 

 私はこの曲集を、2006年、松石佳奈さんの長子、そうくんの一歳の誕生日を祝うために書いた。実はその数年前からある小さな出版社の社長に、子供のための作品を書くように強く勧められていた。常々お世話になっていたその社長の期待に応えるべく後押ししてくれたのは、他ならぬそうくんの誕生という出来事だった。

 

 それから数年にかけて、私は調性にどっぷりと浸かり込んだ作品を書き続ける事になるのだが、実際に取り組んでみると、それは本当に楽しい作業だった。何をどう書いてもよかったのだ。さあこれから何を書こうかという思いに胸がときめいた。それは僅かな小遣いを握りしめて縁日を見て回るような興奮を伴っていた。おもちゃ箱みたいなものを、ある菓子メーカーが売り出したチョコレートの箱についている金のくちばしを集めると貰える「おもちゃの缶詰」みたいなものを、そんなものを書きたいと思った。安っぽく、薄っぺらで、決して大人の耳には届かない、そんな音をこそ書きたいと思った。

 

 この曲集は、まどろみに誘い込まれるように始まり、最後はゆっくりとオルゴールのぜんまいが切れるように終わる。その間に御伽噺のような曲をいくつか並べてみた。途中、むかしむかしの雰囲気を出すために古代旋法を使ったり、連続する五度の響きを多用したりと、いささか小賢しい企みが見え隠れするのも、今、聴き直してみると何もかもが何だか微笑ましく感じる。

 

 この曲集を書き上げてから数年、今現在、子供のための音楽を作る事はやめてしまった。私自身が幸せな夢から醒めてしまったのだ。またいつか、このような幸せな作品を書きたいと思う日がくるのだろうか。私自身はそのうち、敬愛する詩人、金子光晴に倣って私自身の「若葉のうた」を書きたいとそう願っているのだ。

 

 一束の紙屑として私の仕事部屋の行李の中に眠っていた作品を、商品という形にして下さった谷憲司さん、録音という形で実際に音として残して下さった生野宏美さん、このお二人のお住まいの方には足を向けて眠る事がないようにと肝に命じている。

 

                   2012年8月20日

      夏のうだるような夜の闇に圧倒されながら

      窓を開け放った福岡の寓居にて 

                     太田哲也

 

                 初版あとがきより

前奏曲~夢の入り口

小さなおしゃべりⅠ

小さなおしゃべりⅡ

遠い昔の、遠い国での戦争

闇猫

暖炉のそばで

※楽譜はこちら→Banana! Estragada!!

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