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  冬を渡る白い鳥

 

 長い間、作曲を続けていると、自ずとその方法も決まってくる。そうすると時折、全く普段と違ったやり方で、違った形の作品を書いてみたくなる時がある。この「冬を渡る白い鳥」は、そんな時に作った曲だ。自分は、本来、絵画には縁がない人間だと思い続けてきたが、何故だか、ふと絵画のような作品を作りたいと思った。冬の情景を思い浮かべ、淡い色彩の水墨画のようなものを書きたいと思った。

 

 

  この「冬を渡る白い鳥」は2005年の冬に行われた、ピアニスト・生野宏美のリサイタル「協奏曲の夕べ」の中で奏される曲の中の一つとして作曲した。出来る限り、薄く、乾いた響きを、線と線との絡みを大切にした。冬そのもののように厳しく、そして清潔に書きたいと願った。頭の中には一つの絵があった。まだ夜も明け切らぬ冬の朝、凍ったような川面に休らいでいた鳥たちが、何かの拍子に一斉に飛び立つ。古い無声映画のように、そこに音は無かったように思う。ずっと以前、唐津市内を流れる早朝の舞鶴川の風景だと思うが、もしかすると、いつの間にか頭の中で拵え上げた妄想の風景かもしれない。

「生野宏美エリカ・ディヒラープライズ受賞記念コンサート~協奏曲の夕べ」プログラムノートより(2005.2.13 あいれふホール)

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